2016.07.17

 

テロとイラク戦争の検証

 

 バングラディシュのテロ、イラク・バグダッドでのテロ、フランスのテロ・・・、立て続けに起こる痛ましいテロ事件。これは明らかに暴力の応酬となっています。思い起こされるのはフランスによるISへの空爆(死刑を廃止した国がなぜ罪も犯していない一般人を虐殺するのか?)、そして、2000年以降、イスラエルが行っているパレスチナ自治区やレバノンなどへの大規模な攻撃(女性や子どもなどの非戦闘員も多数殺傷)。

 

 このような事件に対する 日本政府(安倍政権)の責任について、雨宮処凛がまとめていた ので一部抜粋・紹介しておきます。

 

〔以下抜粋〕

 

 バングラデシュで痛ましいテロ事件が起きた。

 

 テロの犠牲になった中には、日本人も7人含まれていた。その中には、武装集団に対して「私は日本人だ!」「どうか撃たないで」と英語で懇願した人もいたという。

 

 「戦争しない国」「イスラムに敵視されない国」「軍隊がない国」。そんな漠然としたこの国へのイメージが国際社会で共有されているという思いがあったからこそ、「日本人だ」という言葉が出たのだろう。しかし、日本人であることで免責される時代は終わった。このテロは、その事実を突きつけてくる。

 

 テロ事件の翌々日、テレビを見ていると、安倍首相が選挙の応援演説をしていた。その中で首相はバングラデシュでのテロ事件に触れ、「テロを根絶するために、各国と連携していく」などと街宣車の上で語っていた。

 

 開いた口が塞がらなかった。

 

 2015年1月、よりによってイスラエル国旗の前で2億ドル出すなどと「ISとの戦い」を事実上宣言したことで、安倍首相は人質となっていた後藤健二さん、湯川遥菜さんの2名の命を危機に晒した。そして、2人の命は無残な形で奪われた。

 

 その際にISは、以下のような声明を出している。

 

 「アベよ、勝ち目のない戦いに参加するというおまえの無謀な決断のために、このナイフはケンジを殺すだけでなく、おまえの国民を、場所を問わずに殺戮するだろう。日本の悪夢が始まる

 

 報道によると、武装集団は日本人を狙って殺していたという。また、今回のテロ事件の声明文には、「我々は日本人の殺害に成功した。このような攻撃を今後も継続する」という一文もある。

 

 安倍晋三という一人の人間の、国際情勢をまったく把握していないかに見える無神経な言動によって、この国に生きる人々はISに敵視され、「殺戮の対象」となってしまった。

(・・・)

 

  イラクの首都でのテロという報道を受け、改めて思い出したのは、イラク・ファルージャの惨状だ。イラク政府軍がISからファルージャを奪還するために、この数ヶ月、ファルージャでどれほどの悲劇が起きていたか、一体どれくらいの人が知っているだろう。

 

 「人間の盾」として最大で9万人とも言われる市民がファルージャに閉じ込められ、支援物資は届かず住民は餓死寸前。5歳の子どもが「空腹に耐えられないから殺してくれ」と親に懇願するような事態になっていたのだ。

 

 このことを知らなくても、ある意味で仕方ないのかもしれない。なぜなら、日本ではほとんど報道されないのだから。しかし、安倍首相だけには「知らない」とは言わせたくない。

 

 これほどにISが台頭してきた背景にあるのは、まぎれもなくイラク戦争とその後の泥沼の混乱であり、安倍首相はイラク戦争当時、内閣官房副長官だっただけでなく、その後の多くの時期を責任あるポストで過ごしてきたからだ。日本が真っ先に支持した戦争によってイラクでどれほどの悲劇が日々繰り広げられてきたか、そしてそれが今も続いているということを、「知らない」では絶対に済まされない。

 

 しかし、各国がイラク戦争を「間違った戦争」であることを認め、政府をあげて検証が進められている中 英のイラク参戦「最後の手段ではなかった」、日本はなんの検証もせずそれどころか「間違っていなかった」というスタンスでの答弁を繰り返して、安保法制は成立した

 

(・・・)

 

 それだけでなく、今度は「貧困層を、奨学金をエサに自衛隊に誘う」という、米軍とそっくりそのまま同じことをしようとしていることが最近明らかになった。(・・・)

 

〔コメント〕

 

 英国がイラク戦争の検証を徹底的に行って報告書を作成したのと対照的に、そのような検証作業を全く進めようとしていないのが、日本の著しい特徴です。過ちを繰り返し暴力の連鎖を引き起こすことを防ぐには、何よりも歴史を検証することが必要であるにもかかわらず・・・。

 

 以前、ジャーナリズムの観点を中心にベトナム戦争を検証したNHKの番組を紹介しましたが、日本政府の責任追及の部分は甘かったように感じました。第二次大戦後、米国がベトナムやイラクで行った「侵略戦争」にたいして、日本政府は一貫して無批判に支持・協力しています。

 

 立憲主義をないがしろにした安保法制、参院選挙後に「後出しじゃんけん」で出てきた改憲論議首相は「自民党改憲案」を中心に「憲法の前文」から変えていきたい、といっています。憲法の中で明確に歴史の反省を踏まえたものが「憲法前文」であるにもかかわらず・・・)

 

 米国の戦争への支持・協力という歴史を真正面から検証しない限り、「集団的自衛権の行使」は暴力の連鎖を生み出すほかないでしょう。