スウェーデンはどう年金改革を成し遂げたか

日本では問題山積の年金制度。だが約10年前、スウェーデンではすでに年金改革が断行されている。福祉国家の出した答えとは。

 

スウェーデンの国民には毎年1回、「オレンジの手紙」が届く。これまでの年金積立額、運用収益、それによって将来受け取る年金がどの程度になるかが記載されている。日本でも年金記録確認のための「ねんきん特別便」が始まったが、スウェーデンではすでに10年近くも前から、より詳細な情報が国民に通知されている。

 スウェーデンは1999年、世界的にも注目される公的年金制度の改革を実施した。年金改革を主導したボー・ケーンベリィ氏は、改革のポイントを「年金の負担と受給の差を解消したうえで、持続可能な年金制度を目指した」と解説する。

 先進国の多くは、年金制度を世代問の助け合いととらえ、高齢者に支給する年金の財源を現役世代の保険料で賄う方式(賦課方式)を採用する。これは日本もスウェーデンも同じだ。しかしこの方式では、負担した保険料と将来受け取る年金額が直接リンクしない。少子高齢化が進めば、保険料率が上がるか、年金給付が減る可能性がある。つまり、自分の払った保険料が本当に返ってくる保証はない。日本に広がる年金不信には、こうした問題が板底にある。

 賦課方式を維持しながら、負担と給付をどうリンクさせるか 。そこでスウェーデンで発明″されたのが、「みなし積み立て方式」だ。スウェーデンでは、加入者が支払った保険料が個人の口座に毎年積み立てられたと仮定し、その総額に一定の利回り(1人当たりの賃金上昇率を採用)をつけた額が、老後の給付総額となる。実際口座に保険料が積み上がるわけではないので、みなし積み立て方式と呼ばれる。

 この方式はその後ポーランドやチェコなどでも採用され、「国際的に主流な考え方になりつつある」(高山意之一席大学教授)。スウェーデンではこれによって負担と受給が概念上一対一に対応し「若者の年金不信が解消された」(同)といわれる。

 ストックホルム郊外のウプサラ市に住むインゲル:フンドグレーンさん。印刷会社に44年間勤め、657カ月でリタイアした。「1カ月長く勤めるごとに、年金を100クローナ(1700円)多くもらえたんだがね。これがホドホドと思って」と笑う。

 新制度では61歳以上であれば、加入者が受給開始年齢を自由に決める。長く働けば働くだけ、受給額が増える仕組みだ。102歳まで働けば、1カ月に受け取る年金は22年分の給与相当額−。こんな試算もある。この制度によって「国民に年金が“ただでもらえるランチはない”ことをアピールする材料になった」(ケーンベリィ氏)。高齢者の労働力を活用することで、高齢化の影響を緩和する効果もある。

 従来スウェーデンでは、日本と同じように基礎年金と、現役時代の所得に比例する年金の両方を持つ2階建ての制度だった。新制度ではそれを所得比例の年金に一本化。基礎年金を廃止した代わりに、低所得者向けに全額を税金で賄う最低保障年金を導入した。

 65歳以上でスウェーデン在住40年超であれば、これまで年金をまったく払わなかった人でも、2006年には月7047クローナ(約12万円。単身者向けの税込み額。実際の手取り金額はそれほど高くない)を受け取った。ただし最低保障年金は、あくまで受給者を低所得者に限る、公的扶助という位置づけだ。

 みなし積み立て制度や所得比例年金への一本化によって、年金が国民にとってわかりやすい制度になった。他方で「自分の年金は自分で積み立てる」という原則が強調されている点も見逃せない。

 

政党を超えて年金問題に取り組む

 

 年金改革が本格的にスタートしたのは、9111月。国会に議席を有する全7党が参加した「年金ワーキンググループ」が発足してからだ。

 スウェーデンの政治家は、年金問題に関して強いリーダーシップを発揮した。ワーキンググループは、国会ではなく政府の下に置かれ、会議は非公開であることも多かったようだ。年金問題は複雑で専門性が高い。そのため、政府がまず政策の方針を示し、それに対し国民の理解を求めるプロセスをたどった。

 「ワーキンググループには各党の実力者が集まり、意見の違いを乗り超えて合意形成を図った」(スウェーデンの年金問題に詳しい井上誠一・厚生労働省児童手当管理室長)。新制度は941月、主要5党の合意によって骨子が固まった。当初の7党からは左右両極政党が抜け、結果的に5党による合意となったが、それでも5党の国会における総議席数は、全体の88%を占めた。スウェーデンでは政党を超えて年金問題に取り組んだといえ、年金が「政局」となる日本とは大きく異なる。

 日本にスウェーデン式をそのまま導入すれば、問題が解決するわけではない。

「他国の年金制度を入れるのは簡単だが、国それぞれで事情が異なる。政治での協議の場も、国によって次元の違う問題であることを理解する必要がある」(ケーンベリィ氏)。どの国にも合う万能な制度はない。日本は日本に合う制度を、自らの手で作り上げていくしかなさそうだ。