ウクライナ・オン・ファイアー」の「ギュンターりつこ」さんによる批判・検証について

 

ウクライナ・オン・ファイヤー 日本語字幕(字幕改正版) - YouTube(註)

 

ウクライナの歴史と近年に起こされたカラー革命と呼ばれるクーデターの仕組みを解説している2016年に制作されたドキュメンタリーです。

初公開:2016616日 監督:Igor Lopatonok プロデューサー オリバー・ストーン

2014年、キエフのマイダン独立広場で起こされた暴動は、民主的に選ばれたヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領を追放するために起こされたクーデターだったのです。

西側メディアはヤヌコーヴィチ政権とロシアを加害者として描いています。しかし、本当にそうだったのでしょうか?

クーデターにより、炎上したウクライナは、2004年のオレンジ革命2014年の反乱、そしてヤヌコビッチ政権の転覆につながりました。

この悲劇を西側メディアは民主主義の革命として大きく取り上げましたが、実際にはウクライナに戦後生き延びたネオナチ民族主義者と米国務省によって脚本・演出されたクーデターであったことが知られています。

この様なカラー革命は世界中至るところで起こされています。 それは如何にして起こされて来たのでしょうか? そのテクニックをオリバーストーンは分かりやすく描いています。

 

映画「ウクライナ・オン・ファイアー」にこだわって検証(特に、ギュンターりつ子さんが指摘するこの映画の問題点をめぐる検証)を試みました。というのは、この映画は迫真性を感じさせただけでなく、最終的なmessageは全く妥当なものとして深く納得できたからです。

 「世界終末時計は(破滅を意味する)午前0時まであと3分に迫っています。なぜなら、各国の指導者たちは最も大切な義務を果たしていないからです。」(当然、この指導者にはバイデンもプーチンも含まれる。)

確かにその「真実性」や「妥当性」について検証が必要であることはよく理解できます。(映画に登場するプーチンの言葉の中にも「お前がそれを言うのか」という内容がある。)ギュンターさんの文章も検証の試みではありますが、(とりわけEについては)かなり不十分に見えます。根本的に「ウクライナで親ロ政権転覆につながった革命の背後にCIA・米国政府のあと押しが存在していた」という映画の主張(少なくともいくつかの根拠を示している)を反証することができていない、と考えるのです。ギュンターさん自身は、「CIAにはその動機がない」ということで以下のように述べていますが・・・。

 

E「腑に落ちない点は、なぜCIAがウクライナ政府転覆に協力しなければならないのか、ということです。ストーン監督は『米国は経済的な問題でライバルと並んでいることを許容できない』と述べていますが、ロシアの現在のGDPはイタリアやブラジルよりも低く、ダントツトップのアメリカのわずか13分の1です。しかも決して豊かとは言えないウクライナの経済を背負うことで、アメリカ経済に何のメリットがあると言うのでしょう。ストーン監督はいまだに冷戦時代の考え方にとらわれており、古いドグマに固執してアメリカを一方的に批判し、陰謀論で中傷しています。」

 

 「100の言葉よりも一つの事実」といいますが、米国の経済は現時点でも巨大な軍需産業に支えられています。そして、「対ソ軍事同盟」として結成されたNATOが冷戦終了後にも解体されるどころかどんどん東方に拡大しているのも事実。少なくとも世界平和をめざすのであれば「軍産複合体もNATOも本来は冷戦終結後に役割を終えていたはずのもの」です。本来は終わっているものを生き延びさせるために、CIAが様々な工作をし、危機や混乱を創り出してきた、ということは十分に想定できることではないでしょうか。動機がないからそのような工作はあるはずがない、という主張には正直、説得力を感じませんでした。、

 それどころか、ウクライナの「マイダン革命」への米国の関与(革命を扇動し大統領を亡命させた)については、オバマCNNインタビューで、バイデン自伝で告白していることを確認することができました。

2022年、5月付記〕

 また、動機だけを問題にするのであれば、逆に、ギュンターさんのDに関わって「ロシアで訓練された対テロ部隊」が、政権転覆の運動を過激化させるような狙撃を本当に行ったのか?という疑問を感じました。当面、動画から確認する手段を持ち合わせていませんが、「親ロ政権の転覆を後押しする動機がロシアにある」とは思えないのです。むしろ、米国(CIA)の関与があったとすれば、「ロシアの部隊に見せかけて狙撃を行い、革命を過激化させた」と解釈するほうが自然でしょう。

2000年代の問題だけでなく、歴史的な経過について、つまり彼女の指摘する@〜Cについて(さらに「ネオナチとウクライナについて」調べてみましたので、リンク先をご一読ください。〕

 

 もう一つ、ギュンターさんの姿勢で感じるのはNATO諸国(例えばドイツ政府)の公式発表めいたものについて、疑いを持っていないことです。

例えば、31 21:56  ・ の記述。

「『東西ドイツが統一する際、NATOは1インチも東方に拡大しないと約束した』という事実はありません。プーチンが『当時、そう言ったはず』と言っているだけで、文書も残っておらず、・・・日本のある政党(れいわ新撰組のこと:補)が『ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」に反対し、その声明の中で「米欧主要国がソ連邦崩壊時の約束であるNATO東方拡大せず、を反故にしてきたことなどに目を向け」るべき、と史実を調べることなくプーチンのプロパガンダをそのまま盛り込んでいることを遺憾に思います。』」

 

 しかし、この約束の存在は公文書として確認されているようです。伊勢崎賢治の発言を引用します。

 https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/22870

 

 伊勢崎

 米国の大学では公文書のアーカイブがある。米国では日本みたいに自衛隊日報を隠したり、勝手に処分したりしない。政府の文書は、それが機密文書であっても国民の財産なので政府が勝手に破棄できない。だから米国では外交文書といういわゆる密約にあたるものでも一定の年月を経ると公開される。それを大学の研究者が整理している。

 そこで「1インチも東方拡大しない」という約束があったことは証明されている。ゴルバチョフが中心になったペレストロイカ、(・・・)当時のブッシュ米大統領やサッチャー首相(英国)、コール首相(西ドイツ)などが、彼を気遣って約束したことが機密文書に書かれている。当時、東西ドイツの統一をソ連が認めるかわりに、NATOはポーランドも含めてNATO加盟国にしないことなど、「1インチも拡大しない」という言葉として文章に残っている。

 

 つまり、「そんな約束はなかった」というNATO諸国の公式見解を全く疑っていないから「オリバーストーンの映画は荒唐無稽の陰謀論だ」ということで相手にしていないのではないか。ドイツ人ともあろうものが一種の「集団同調主義」に陥っているのではないか、という疑問を持つのです。

 検証が必要であることは間違いありませんが、その対象は映画の内容だけでなく、政府の公式見解やウクライナ問題に関する各国の報道の仕方にも及ばなければならないと考えます。

 

 伊勢崎はさらに、「ウクライナ国軍による東部地域への攻撃」に関わって「オレンジ革命」と「マイダン革命」について以下のように証言しています。長いですが、重要な中身ですので引き続き紹介します。

 

伊勢崎 2014年以降、ウクライナ東部の親ロシア派地域で暮らす住民が国軍から攻撃を受け続けていた。通常これだけのことがあれば国際社会は黙っていない。それから8年経っているのに民族和解などはされていない。(この度の混乱・ロシアによる侵攻は)そのツケが回ってきたとしか考えられない。(・・・)

 

―ウクライナの経緯をみると、2004年の「オレンジ革命」に続き、2014年の騒乱(マイダン革命)で親ロシア派政権が転覆され、親欧米政権となった。米国はウクライナの反政府勢力に全米民主主義基金(NED)を通じて反政府側に資金を注いでいたといわれ、当時のオバマ政権の副大統領だったバイデンも政権転覆に深く関与していた。日本ではあまり馴染みのないネオナチやネオコンの介在が指摘されているが、実際は?

 

伊勢崎 僕は「明るいCIA(米中央情報局)」と呼んでいる。「民主化」という名のもとに明るくレジームチェンジ(体制転換)していくわけだ。(・・・)

 米国のNGO全米民主主義基金(NED)がウクライナにテコ入れしている2005年から、ちょうどアフガンでも同じことをやっていた。いわゆる「民主化支援」だ。当時、NHKが東欧やアラブの「カラー革命」(民主化を掲げた政権転覆運動)に資金を提供していたNEDの役割について特集番組を組み、ゲストとして招かれた僕はそこで次の様な指摘をした。

 「仮に民主主義を広めることに普遍的な価値があったとしても、対象国のある特定のグループもしくは個人を、資金力をバックにした外部の力が支援することは立派な内政干渉だ。そのなかで“内なる力を支援したのだ”とか、または“彼らに頼まれたからやったのだ”というのは、国際協力全般によく聞かれる詭弁であり(・・・)「民主主義を育む土壌や社会システムをつくるという神聖な国際支援そのものが、果たして米国の政権にとって都合のよい政治グループもしくは個人を台頭させるという政治工作行為とどれだけ一線を画するか――。それが民主化支援に課せられた一番大きな問題だ」と。(・・・)

 米国がやっている「民主化支援」は、民主主義の支援ではない。民主主義というのは、多数決でものごとが決まっても少数派の意見を大事にすることだ。それは包括的なものであり、原則は排除しないことだ。米国がやっている民主化支援とは、要するに米国に楯突く勢力を排除した政権をつくることであり、それを民主化と言っているに過ぎない。まさにウクライナがそうであり、アフガニスタンもイラクもそうだった。イラクではサダム・フセインのバアス党を完全に排除した。アフガニスタンでは、米国の掃討作戦のターゲットであったタリバンを民主化プロセスから完全に排除した。本当であれば彼ら敗者も民主化プロセスにとりいれる工夫をするべきだった。彼らも同じアフガン人、イラク人なのだから。(・・・)

 僕は18年前、NEDの代表が東京に来たときに彼と面談したが、そのとき彼は豪語していた。「オレンジ革命は俺がやった」と――。

 彼らがやったことは民主化という名を借りた分断だ。自分たちの利益につながるのなら、それが例えイスラムのジハーディスト(聖戦士)であろうと(ネオナチであろうと:補)、分断というもののために金を出す。こういう議論は、一歩間違うと「陰謀説」として片付けられてしまう。しかし、上記のことは、僕が実際に経験したことだ。

 

 なお、この度の「ロシアによるウクライナ侵攻」に関する私の見解は、伊勢崎賢治とほぼ一致しています。以下(HP)にまとめていますので、よろしければ、ご一読ください。

http://shchan-3.punyu.jp/22ukurainasinkou.pdf

 

下のrinkは、ウクライナ東部に位置するドンバス地域で20142月以降何が起こったのか、その真実を自分の目、耳、全身で確かめるため、フランスの女性ジャーナリスト、アンヌ=ロール・ボネルが同地に赴き、取材・制作したdocumentです。

"ドンバス 2016"ドキュメンタリー映画【日本語字幕付き】("Donbass 2016" Documentary by Anne Laure Bonnel subtitles JAPANESE) - YouTube

 

〔端的に言って、軍需産業を中心とする米国の利益のために、ウクライナの政権転覆も「NATO拡大を巡るロシア侵攻直前の緊張状態」も画策されたものではなかったか、という主張にもかなり信憑性があると現時点では考えています。例として、バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛など。「ウクライナ・オン・ファイアー」のドキュメントとしての妥当性も一定評価できるのではないかと・・・。「世に倦む日々」のブログ主の分析も興味深い内容でした。〕 

321日付記〕

 

 「ネオナチ」のウクライナ政権との関わりも含め、ロシア側の主張はすべて捏造だ、と決めつける報道の状況は問題だと考えています。その在り方を問い直す材料として、ウクライナ国内の生物化学兵器の研究施設に関するヌランド国務次官の証言(米議会での答弁)を挙げておきます。

〔参考資料〕 

37日、ロシア軍の生物化学防護部隊を率いているイゴール・キリロフ中将は記者会見を開き、ウクライナの生物兵器の研究開発施設から回収した文書について語った。(そうした研究施設があることはウクライナのアメリカ大使館も認めていたが、その実態に迫るための文書を回収できたということだろう。:補)ウクライナにはアメリカのDTRA(国防脅威削減局)にコントロールされた研究施設が30カ所あると言われている。ロシア国防省によると、ウクライナの研究施設で鳥、コウモリ、爬虫類の病原体を扱う予定があり、ロシアやウクライナを含む地域を移動する鳥を利用して病原体を広める研究もしていたことが判明したという。キリロフは以前からアメリカが中国やロシアとの国境近くに細菌兵器の研究施設を建設してきたと主張していた。〕

こうした話を西側では「偽情報」だとしてきたが、​38日にはビクトリア・ヌランド国務次官が生物化学兵器の研究施設がウクライナにあることを上院外交委員会で認めた

https://twitter.com/ggreenwald/status/1501313109520175104?cxt=HHwWgMCy2bOU3tUpAAAA

マルコ・ルビオ上院議員の質問に答えたのだ。

議員は「偽情報」だとする答えを期待していたようだが、すでにロシア政府に証拠を握られているので、嘘をつくと後に問題化すると考えたのかもしれない。

その際、ヌランドは生物化学兵器をロシア軍が押収するかもしれないと懸念している。ウクライナの研究施設で生物化学兵器の研究開発が行われていたこと事実上、認めたわけだが、その生物兵器を「ロシアが」使うかもしれないと語った。