アル・ゴア氏主演『不都合な真実』に関する「不都合な判決」について

(「イギリスの高等裁判所で指摘された誤り」についてのコメント)

 

 イギリスの高等裁判所はゴア氏の『不都合な真実』について「気候変化が大げさに描かれている部分がある」と指摘した。主な項目として「南極やグリーンランドの氷解等によって近い将来6メートル程度の海面上昇の可能性がある」というゴア氏の主張は「科学的には千年以上かかるといわれている」という。確かに、IPCC第4次報告の中にもそのような記載があり、裁判所が出したような指摘は成り立つであろう。

しかしながら、「海面上昇の可能性」に関するゴア氏の主張を「非科学的」と決めつけることができるかというと必ずしもそうではない。実は、断定できない根拠をIPCC第4次報告からも抜き出せるのである。関連するIPCC報告書の記述(気象庁訳)をいくつか引用してみよう。

@「古気候に関する情報によって、(・・・)長期間にわたり、現在よりもかなり温暖だった最後の時期(約125,000年前)には、極域の氷の減少により4〜6mの海面水位の上昇がもたらされた。」

A「氷床コアのデータによれば、その期間における極域の平均気温は、地球の公転軌道の違いにより現在より3〜5℃高かったことが示されている。」

B「グリーンランドの氷床や北極の他の氷雪域の観測された海面水位上昇への寄与は多くとも4m程度である可能性が高い。南極からの寄与もあった可能性がある。」

C「最近の観測結果が示唆する氷河に関係した力学的な過程によって、昇温によって氷床の脆弱性は増加し、将来の海面水位上昇がもたらされる可能性がある。しかし、()その規模についての一致した見解は得られていない。」

 

 以上のことから読み取れることは、(1)今世紀の温度上昇に伴う「極域の自然な氷解」の結果生じる海面上昇の規模がIPCC報告では最大58cm」との予測が存在するにしても、「力学的な氷床の脆弱化と氷の流出」については厳密な予測が不可能であるということ、(2)125,000年前の古気候に関する情報から類推して、極地の3〜5℃の温度上昇が4〜6mの海面水位の上昇につながることもありうる、ということである。

〔ちなみにIPCC第4次報告書によると、現在のエネルギー浪費型の経済活動や生活を転換できなかった場合、今世紀末に気温は4度前後上昇する(最悪6.4度の上昇)ということである。〕

IPCC報告からの引用文Bに記載されていたような「力学的な氷床の脆弱化と氷の流出」については『不都合な真実』の中でアル・ゴア氏がその可能性〔グリーンランド内陸の氷河に生じた裂け目が流水とともに地下に向かって拡大し、氷塊が岩盤から滑り落ちる〕を図示している。南極大陸における棚氷の崩壊も、温度上昇による自然な融解ではなく「力学的な氷の脆弱化・崩壊」として理解できる。 

また、アル・ゴア氏は「北極海の氷山が急速に縮小しつつあることと、そのメカニズム」について説明しているが、2007年8月17日の各紙の報道によると、北極海の氷の縮小がIPCCの予測をはるかに超えた速度で進んでいるという。その背景としては北極海周辺の気温上昇または海水温の上昇が考えられる。そのような現状を踏まえると、「極域の氷河の融解や力学的な氷の脆弱化・崩壊によって数メートルの海面上昇が生じる可能性がある」との指摘について「まったく非科学的である」と断定することはできないのではないか。

 

以上は一例であるが、仮にアル・ゴア氏主演の『不都合な真実』の内容に関していくつかの疑問をさしはさむ余地があるとしても、「ゴア氏のように推測することは非科学的である」と断定できないものが多いのではないだろうか。(現時点で私の得た情報は報道内容だけなので、これも断定はできないが…)

そして何よりもこの映画は、「人為的な活動を原因とする地球温暖化の進行」への警鐘を鳴らし(イギリスの高等裁判所もこのメッセージそのものは適切であるとして「上映さしとめの請求」は退けている)、多くの環境運動家や政治的な指導者、宗教的な指導者にも大きな影響を与え、地球温暖化対策に関する論議・実践に大きな一石を投じることとなった。周知のように、アル・ゴア氏の活動が「ノーベル平和賞」の対象となったことにも、そのような背景が確実にある。