2012.12.04

 

官邸の作成していた「福島原発−最悪のシナリオ」

 

 官邸が20113月に作成した「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」という資料があります。
 これは、福島第一原発が完全に制御不能となり、致死量の放射線によって作業員が撤退せざるを得なくなった場合、一体どの程度被害が拡大していくのか、技術的に予測したものです

 その中には概略、次のようなことが記されています。
 「水素爆発で一号機の原子炉格納容器が壊れ、放射線量が上昇して作業員全員が撤退したとの想定で、注水による冷却ができなくなった二号機、三号機の原子炉や、一号機から四号機の使用済み核燃料プールから放射性物質が放出されると強制移転区域は半径170キロ以上、希望者の移転を認める区域が東京都を含む半径250キロに及ぶ可能性がある

(『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』幻冬舎新書2122頁)
 
 上記著書はもちろん、当時総理大臣だった菅直人が書いたものですが、朝日新聞記者である木村英昭のルポ『検証・福島原発事故・官邸の100時間』(岩波書店)の内容ともよく合致していました。
 
 そして、『検証・福島原発事故』以上の切迫感とともに伝わってくるのは、「半径250キロ圏の高濃度汚染、想像を絶する規模の避難」という悪夢と向き合いながら対処せざるを得なかった「最高責任者の苦悩」です。

 例えば一号機と三号機爆発後の危機的な状況について、次のように記されています。
 「二号機は先に爆発した一号機と三号機の間にあったため、二つの爆発事故の被害を受けてしまったのだ。負の連鎖の恐怖だ。
 海水注入がなかなか始まらない段階で、細野補佐官のもとに(信頼していた)吉田所長から、『これは駄目かもしれない』と電話があったという。このことを細野補佐官から聞いた時は、私も言葉が出なかった。吉田所長がそう漏らすからには、かなり危機的な状況と判断するしかない。」〔『同書』106頁( )内は引用者〕

 上記は、極めて切迫した場面の一つですが、この著書の中で菅直人はシミュレーションした「最悪の事態」について次のように述べています。
 「それにしても、半径250キロとなると、青森県を除く東北地方のほぼすべてと、新潟県のほぼすべて、長野県の一部、そして首都圏を含む関東の大部分となり、約5000万人が居住している。」(23頁)「そしてこれは空想の話ではない。紙一重で現実となった話なのだ。」(25頁)

 まさに、当時、最高責任者として原発事故対応にあたった前首相が、5000万人避難のシナリオが紙一重の現実だったと証言しているのです

 「もしベントが遅れた格納容器が、ゴム風船が割れるように全体が崩壊する爆発を起こしていたら最悪のシナリオは避けられなかった。
 しかし格納容器は全体としては崩壊せず、二号炉ではサプレッションチャンバーに穴が開いたと推定されている。原子炉が、いわば紙風船にガスを入れた時に、弱い継ぎ目に穴が開いて内部のガスが漏れるような状態になったと思われるのだ。

 その結果、一挙に致死量の放射性物質が出ることにはならず、また圧力が低下したので外部からの注水が可能になった。
 破滅を免れることができたのは、現場の努力も大きかったが、最後は幸運な偶然が重なった結果だと思う。

 四号炉の使用済み核燃料プールに水があったこともその一つだ。工事の遅れで事故当時、四号機の原子炉が水で満たされており、衝撃など何かの理由でその水が核燃料プールに流れ込んだとされている。もしプールの水が沸騰してなくなっていれば、最悪のシナリオは避けられなかった。まさに神の御加護があったのだ。

 
こうして()具体的な避難計画の立案を指示するという事態にまでは至らず、『5000万人避難のシミュレーション』は私の頭の中にとどまった。」(36-37頁)


 確かに現場で命がけの対応がなされたことはまちがいない。しかし、最悪のシナリオを回避できたのは幸運に助けられた面が大きい、という前首相の証言を私達はどのように受け止めるべきでしょうか。

 去る1130日、原子力規制委員会は「110万キロワット級の原発1基から福島第一原発事故のおよそ半分の量の放射性物質が放出されたと仮定して」住民被ばく対策の試算を公表しました。

 しかし、「紙一重だった最悪の事態(全人口の半数近くの避難によって、首都機能も含め、日本全体が壊滅的な打撃を受ける)」を考えると、そのような想定は本当に充分なのでしょうか。「そんなことを考えていたら原発が稼働できなくなるから『最悪の事態』など考えない、」ということで果たしていいのでしょうか。

 そしてまた、5000万人が直面することになったかもしれない苦悩を、まさに現在味わっている福島の人たちについて、さらに、私達の次世代への責任・「未来への責任」についてどう考えていくべきなのか

 「原子力村」の宣伝に惑わされない、しっかりした判断・行動をしていきたいものです。

  日本の原発における冷却系統の欠陥 
 
停止中の原発の燃料プールにも警戒を

 

 

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