1 人間形成もしくは人づくりの技の概念
○形成・教化・教育
人づくりの技
世代交代は複数の要因から成り立つ
交代の政治経済機能、そのルール、そのマナー、そしてこれを内面化するためのイデオロギー装置
教育は、色々な役割を持つ人づくりの技の中のひとつ、その特異な形である
(人間形成一般の中のひとつ)
人間形成の技・・・例)妊婦を助産する、手技や考え方を習わせる・・・色々
これらの技は以下のように分類できる
@形成(forming)・・・自己の意図とかかわりなく、たとえば太り、学芸を身につけ、行動を学ぶ等々。労働・交際など他目的の行為に付随する副産物。
A制作された学習・・・介入者が習わせたり、教えたりしてプログラム化することで成立
ア、 教化…介入の目的が、国家、企業、家など所属集団の維持や改革にある場合
そのような意味で「集団にとってよい人格」を次世代につくり出そうとする (18頁)
(又は選別…「村八分」、「非国民」という形での排除?)
イ、 教育…介入の目的が個々人の人格的自立(「人格の完成?」)の助成にある場合
子どもを「よりよい個人」への自立を目指して試行錯誤する存在として扱う
(この「よさ」は固定化されない。教育的価値も多元化。) (18頁)
例)市民社会という名の欲望社会の中では自然に「損得・利害」の性格をおびてくる
しかし、「より善く、より美しく」などの形もありうる
「心の理論」回路を使った教えの技 Q主要な関心の対象は?
(1) 教化 社会集団
(2) 教育 個人
公と私、集団と個人の利害の一致・ズレに応じて時に両者は重なり、あるいはズレる
○人間性と教える行為
「教えに介入された学習」…人を中心にこの種だけに特有のもの
この教えを成り立たせる契機…「教育愛」、愛の「共同体」的関係と呼ばれてきた
(教育の場での評価のあり方は、「心の関係」の問題として厳しく問われてきた)
「学習能力」…動物界一般にひろがる
しかし、「一種の教育(引用者)」による学習は限定されている(ひろがりの範囲は狭い)
※ ある個体が別の個体に働きかけ、個体の行動(にともなっていると推定される学習内容)に変化がおこる、といった例は極めて少ない
・教える能力…ヒトと少数の無尾猿類は特異⇒この能力が社会・文化的進歩につながった
相手の要求や気持ちについての「仮説」を積み上げていく能力⇒一本調子の教えの反復ではなくより柔軟・適切な方法を生み出していく能力
・教育評価…相手の「心の声」を測定して自らの行動をこれに適応させていく営み
「形成的評価」
(以下、関連する参考資料:『文化の理論のために』 竹内芳郎)
Q「学習情報の集積」である文化の特徴は?
A個体の学習したもの⇒社会・群れの中に制度化⇒世代を通じて継承
(つまり、文化的行動とは単なる〈学習情報〉ではなく〈社会情報〉に基づく行動)
動物が「高等」になればなるほど、その情報基盤は遺伝情報から社会情報へ代替
例1)サルの群れにはそれぞれ固有の食品リストが定められている⇒リスト外のものに
手を出した小猿は、母ザルから厳しく禁圧された
例2)屋久島のサルが大平山に放たれたとき、ほとんど餓死 ← 植物は一杯あったのに、
群れの「旧食品リスト」に呪縛されて食べられなかったため
(人に捕獲され、群れから離れた一頭は旧食品リストから解放されて何でも食べた)
Qこれらを人間における文化的呪縛と同一視できるか? A難しい
Qなぜか?
A 例1)母ザルの禁圧は「物理的妨害」であって法規違反に対する社会的制裁ではない
例2)旧食品リストの呪縛も〈社会的模倣=習慣〉を越えている証拠はない
イデオロギー的呪縛(タブー)とは、性格が異なる
Q;社会情報が真に遺伝情報から自立したものとなっている証拠は?
A;それが特定個体によって発明・発見され、その個体の属する社会(群れ)だけの固有の習慣または伝統となっていること。
Q;(このような)社会習慣の〈創造性〉が見られる例は?
例1)幸島のニホンザル 芋を海水につけて洗浄すると同時に味付けする
例2) 同上 砂と混ぜ合わされた麦 海中にぶちまけて分離
例3)チンパンジー 小枝をなめて巣に差し込み、アリを釣る
これらの行動は年若いサルたちによって創始され、年長の牡ザルは拒否反応示す
Q このような〈創造〉は文化形成といえるのか? A 無理がある
〈文化〉…創造物の間に有機的な連関が形成される⇒個々の創造が累進化され重層される
世代間で知識が伝達される例に関しても同様
ローレンツ
「ネコの危険性を経験あるコクマルガラスが未経験の雛に伝えることができるのは、ただそのような肉食獣が〈実地教示の対象〉としてそこにいる時だけである」
※「動物的伝統が人間的伝統のように累進化されない理由」…動物伝統の〈対象被拘束性〉
Q 違いの本質は?
A1 心理学的には「感覚・運動的次元」と「表象的次元」との違い
A2 記号学的には「信号」と「象徴」の違い
動物の行動があくまで「感覚・運動的次元」をはなれず、不在または非存在のものをイメージしうる表象的次元にまで超越することがなく、したがって、その記号活動も、「信号」の使用にとどまって象徴の使用にまでいたらないからなのだ――とこう説明すれば…
参考資料は以上
○社会的なコミュニケーション
「心の声」…その起源は社会的なコミュニケーション過程にある
Q サルの学習と人間の学習の違いは?
サル…モノやモノゴトから直接学ぼうとする
人…「大人との心の関係」を通してモノやモノゴトを学ぶ(注1)
学習の場面では本質的に社会的な存在になる
(学習は、歴史社会的な刻印を受けて成立)
〔私見:(注1)の表現よりも「人間は“想像力”“イメージ”を通して(“想像力”“イメージ”を共有しながら)モノやモノゴトを学ぶ」と言った方がより適切ではないか。なぜなら、「社会情報の学習」は必ずしも顔見知りの大人・他者とのコミュニケーション(心の関係)だけで成り立つものではないからだ。(例)新聞・雑誌などメディアを通しての学習〕
近代社会の力学…共同体を解体して市民社会化
近代社会の前提と問題点…「公私」の分裂
未踏の人づくりの世界…直接民主主義を方法とした「公私」の統合(参考:北欧)