近年、欧米のみならず、日本においても北欧社会への注目が高まっています。

  さて、北欧は「働く貧困層」等の問題を解決できていない日本の新たなモデルになりうるのでしょうか。

 特集の一部を要約・引用しながら一緒に考えていきたいと思います。

 このたびは、スウェーデンの家庭を実際に取材した内容です。

〔引用開始〕

 

 スウェーデン家庭に見る福祉国家の真実

 

事例1

・マティアス・ランドグレーンさん(31)は労働組合組織の法律専門家、妻のベンテ・ビヨルクさん(32)は教育省に勤める公務員

二人合わせた収入は月10.2万クローナ(170万円)と高水準だが、税引き後の手取り額は約6万クローナ(102万円)。

実に40%以上が税金に消える。

   マティアス・ランドグレーンさん

 「確かに税金は高い。でも、子育てや教育、ヘルスケアにかかる費用は全て公共が負担してくれるので、生活出費は充分にカバーできる。非常にいいシステムだと思っているよ。」

 

Q 生活費と消費税は? 

 食費、衣料費、交通費や通信費などの生活費(消費支出)は、月におよそ2.5万クローナ。

※衣料品や外食で25%、食品や日用品で12%という高い消費税も含まれている。

 月5000クローナは休暇に向けた貯金。長い夏休みにはフランスへ旅行したり、スウェーデン南部にあるベンテさんの実家に里帰りして過ごす。 

 スウェーデンでは日本のように生活を切り詰めて貯金する人が少ない。

 

Q なぜか?

子どもの教育費も大学まで無料、老後も公的な給付が受けられるとあっては、特別な備えがあまり必要ない

 

 マティアスさんの両親

 父親のインゲル・ランドグレーンさんは66歳。母親のラーシュさんは64歳

 

 インゲルさんには、公的年金1万5500クローナと協約年金(労使協約で設定される年金、開始から5年間給付)3300クローナ、個人年金2000クローナなど月に2万2300クローナ(約38万円)の年金収入がある。

「将来の心配はまったくしていないよ」(インゲルさん)

 

4年前、ランドグレーン老夫妻は、ラーシュさんが脳卒中で倒れた。

ラーシュさんは右半身が不随となり、1ヶ月間の入院後もリハビリに通った。

Q この時に負担した医療費は?

年間わずか900クローナ(約1万5千円)。これが、国の定める医療費の自己負担限度額!

ラーシュさんは、今でも服薬を続けているが、医薬品代の限度額も年間1800クローナ

「もっと年をとって、思うように動けなくなっても、市の在宅サービスが世話してくれますから、安心していますよ」(ラーシュさん)

 

 スウェーデンには、収入の制限なく誰もが福祉サービスを受けられる「福祉普遍主義」の原則がある

これが、高所得者でも受益感覚を持つ大きな要素となっている

 

手当ては確かに手厚いが将来を考えると不安も

 事例2

イェンニュ・アスクさん(38)は、大学の博士課程で民俗学を研究

スウェーデンでは博士課程の履修生でも、学部教育などの業務に関わり、被雇用者として大学から給料を受け取っている

アスクさんの月収は2.1万クローナ(26.7万円)

 

Q 給料以外の収入は?

アスク家の場合にはイェンニュさんの子ども一人に対して950クローナの児童手当

(また3人以上の子どもを持つ世帯の補助金として、450クローナが毎月支給されている)

「収入としては十分だと思っているわ」(イェンニュさん)

 

海外旅行には行けないが、休暇のたびに親戚や友人の家を訪ねて国内旅行を楽しんだり、週末は子どもたちを連れてカフェで過ごしたりする。

末っ子のアルマちゃんは4歳。イェンニュさんが、仕事に出かける朝9時ごろに市の保育所へ連れて行き、午後4時に迎えに行く。

 

Q 子どもが体調を崩した時の「シングルマザー」は?

子どもが突然熱を出したりした時でも、親は給料の75〜80%の給付を受けて仕事を休むことができる。

子どもを病院に連れて行かなくてはならなくなった場合の医療費は120クローナ。

さほど急を要さない場合は、近所の診療所を無料で受診できる

「税金は確かに高いけれど、こういうシステムがあるからこそ、仕事をしながらでも小さな子どもを育てていけるのだと思うわ」(イェンニュさん)

 

子どもたちはときどき、父親のもとで過ごす。イェンニュさんの元夫は、3人の子どものいずれの時も、イェンニュさんが仕事に復帰した後、育児休暇を取って世話をしてきた

 

ただ、イェンニュさんは、銀行の「年金貯金」に口座を開き、個人年金として月300クローナの積み立てを始めている

「ローリスクで利率は低いけれど、自分が年をとったときには公的年金なんてないかもしれない(笑)」

スウェーデンシステムは、セーフティーネットを張り巡らし、世帯所得による大きな格差を生まないようにできている

しかし、将来を考える若い世代の心には、微妙な不安も生まれつつある。

 

〔引用以上 『週刊東洋経済』(2008年/12号)スウェーデン家庭に見る福祉国家の真実

 

(コメント)

 2007年12月にも放映されたNHKスペシャル『ワーキングプアT、U』をご覧になった方は、上記の文章をどのように読まれますか。わたしは、二人の子どもを育てる「シングルマザーの鈴木さと美」さんが2つの仕事を掛け持ちし「早朝から深夜まで働き、子どもと接する時間は夕食前後の2〜3時間」、「大丈夫でなくても、ボロボロになっても(子どもが巣立つまでの)10年間はやるしかない、」と疲れきった目で話しをしていた様子を思い出しました。

スウェーデンのイェンニョさんとは何という違いでしょうか。

 

  また、高齢者の場合にしても、『ワーキングプア』の風間さん夫妻はまさに社会保障制度の改悪(特養のホテルコスト負担の導入)によって貧困に追いつめられているケースであり、北山さんの場合は、「妻の葬儀代だけは確保したい」という人間としてごく普通のプライドが生活保護受給をさまたげています。

 

 ぎりぎりのところでの人としての誇りさえも許さない日本の「社会保障制度」。「将来の心配はまったくしていないよ」というインゲルさんとはなんという違いでしょうか。

「働いて報われる社会」「一人でも子育てができる社会」が定着しているスウェーデン。

 このたび『週刊東洋経済』が北欧の社会・経済について特集した背景・動機の中には『ワーキングプア』で描かれた日本社会の実態に対する疑問や危機感があったのではないでしょうか。

 

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