世界を制するノキアはフィンランドにこだわる

 

 近年、欧米のみならず、日本においても北欧社会への注目が高まっています。さて、北欧は「働く貧困層」等の問題を解決できていない日本の新たなモデルになりうるのでしょうか。特集の一部を引用・コメントしながら一緒に考えていきたいと思います。以下は、フィンランドの世界的な携帯メーカーであるノキアの現状についてです。

 

〔引用開始〕

 

世界におけるノキアのシェアは伸びる一方である。2006年は34.8%と、あとを追う米国モトローラ、韓国サムスン電子の合計シェアを上回った。07年も以下との差はさらに拡大中。原動力は、中国やインドといった新興国での躍進にある。(…)

 

 日本の端末メーカーが攻めあぐねた新興市場を寡占し、力強く成長するノキア。(…)いまや、世界指折りのグローバル企業だ。海外売り上げ比率は実に99%あまり。自国市場への依存度はゼロに近づく。

 

 だが、ひとたび組織に目を向けると、ノキアは驚くほど“内向き”だ。総従業員数52488人のうち、3割弱が今でもフィンランドで働く。国別従業員数では最多だ。自国内にはヘルシンキ郊外本社などに加え、工場も工業都市サロなどに4箇所ある。(…)

 高福祉のフィンランドでは労務コストが高い。給与や福利厚生費など製造業における労務コストを国際比較すると、フィンランドは米国の1.3倍。日本はほぼ米国並みだから、フィンランドの高さがわかる。

 

 市場は圧倒的に海外にあり、コスト面でも国内は不利というのに、なぜノキアは母国にこだわるのか。その答えを、ノキア本社広報はは「母国にはR&Dの素地がある」と言う。フィンランドではノキア社員の6割弱がR&D(研究開発)に従事しており、工場の製品も欧州向けの多機能端末などハイエンド機主が主だ。

 

 実は、フィンランドは世界屈指のR&D大国である。政府や企業などのR&D支出総額はGDPの3.45%を占め、イスラエル、スウェーデンにつぎ世界3位の高水準。「北欧諸国の強みは、小国である分、産官学の協力体制が取りやすく、融通が効く点にある」

 

 政府関連で最大規模のR&D投資を行うフィンランド技術庁は、投資対象を行う産業クラスター(集団)に限っている。複数企業の共同研究のほうが業際や学際の壁を越えやすく、未開拓の分野や技術が育成しやすいためだ。(…)

 

 ノキアは、こういった官民挙げてのR&Dに参加することで、社外の新技術を吸収する。(…)ノキアの内製比率は、実に75%に及ぶ。

(…)

 技術に対するノキアのこだわりは、1990年代に経験した激変期に学んだものだ。(…)

 フィンランド政府も、不況期に失業対策に追われながら産学連携に予算を惜しまず、現在の産業クラスターの素地を作った。

 

“内向き”ノキアを読み解く数字

 

 99%・・・これは2006年度の海外売り上げ比率。

 国別内訳は多い順に中国12%、米国7%、インド6.6%、英国5.8%となっている。

 

.5万人・・・これはフィンランド国内に抱える従業員数。

 今後も国内のR&D(研究開発)人員は増やす方針だ。

 

2割・・・これはフィンランドの輸出総額に占めるノキア製品の比率。

 90年までは、パルプ・紙製品が最大の輸出品目だったが、ノキアの携帯の躍進で一変した。

 

.6億台・・・これは06年の出荷台数。3.4億台のうち、75%が自社での内製品。国内工場の製品も多いが、価格競争力は強い。

 

引用終了『週刊東洋経済』(2008年/12号)より

 

(コメント)

 

 2008年3月8日放映のNHK「日本のこれから」のテーマは「学力」でした。

 その事前アンケートのなかで、今後の教育について@「学力格差をなくしていく方向性を重視するのか」それともA「研究開発の技術者育成など国際競争力を高めていく教育を重視するのか」という問があったのです。フィンランドの場合、明らかに@の立場で教育が行われていますが、ノキアの例を見るとこの教育方針・立場はAの国際競争力を高めるような教育にもつながっているのではないか、と思われます。

 

 フィンランドは一例ですが、「学力の底上げ」に力を入れる教育体制と、先端での技術者の育成が両立可能だ、と言うことは注目するべきでしょう。ただ、社会保障制度の充実しているフィンランドは「家庭教育の基盤」も日本よりしっかりしていると思われます。

 「学力」の問題を窓口にしながら、社会全体の問題・課題を総合的に考えていくことが求められているのではないでしょうか。

 

 

 教育のページへ

 ホームへ